院長ブログ
Diary of Gifu Skincare Clinic
2016.09.26
身近な外傷・・・「やけど」。日焼け、熱湯、油跳ね、ストーブ、ヘアアイロン、湯たんぽなどなど・・・寒くなる季節、周囲にはやけどの危険が。家庭で起こるやけどについての疑問にお答えします。
A.やけどをしたら、第一に患部を冷却することです。最初の冷却が不十分ですと、軽く済むはずのやけどが深くなり、治りが悪く痕が残ってしまう可能性もありますから、大変重要なステップです。病院を探したり、救急車を呼んだりするよりも、水道に直行して、衣服の上からでも流水で冷却します。水道水がない場合や、病院へ移動を開始する場合、流水では冷却しにくい部位の場合などは、保冷剤をハンカチなどでくるんだものを使用してください。冷たくて痛くなるほど低い温度で冷やす必要はありません。また冷却時間は15分から30分を目安にしてください。乳幼児の場合は体温が下がって寒くならないように注意してください。発熱時に使う冷却ジェルやスプレーなどは使用しないでください。
A.日本熱傷学会には、形成外科医、救急医、皮膚科医などが所属しています。私も含め形成外科専門医の場合は、重傷熱傷患者の管理や皮膚の再建、熱傷瘢痕拘縮(やけどが治った後の痕やひきつれ)の手術やリハビリなど、トータルで診療経験があります。熱傷診療に少しでも精通している医師をあたるのが最良です。また、形成外科は創傷(皮膚の損傷)を特に専門的に診療する科です。次号に後述する湿潤療法や治癒後のアフターケアも含めて日常的に診療しています。
やけどの面積が、患者さんの手のひらで10枚分以上あれば、総合病院での入院管理が必要なこともあります。
A.損傷が皮膚のどの深さに達しているかによって決まります。深さは4段階で示され、浅い順に、少し赤くなる程度ならⅠ度、ひりひりと痛みのある水ぶくれができるものは浅達性Ⅱ度、痛みの少ない水ぶくれなら深達性Ⅱ度、焦げたり黄色く固い皮膚に変性してしまったものはⅢ度と表現します。Ⅰ度と浅達性Ⅱ度は「浅いやけど」で、皮膚が再生し、痕が残りません。深達性Ⅱ度やⅢ度は「深いやけど」で皮膚が再生せず、何らかの痕を残して治癒します。この深いやけどでは、皮膚移植が必要なことがありますが、移植してもその手術痕は必ず残ってしまいます。また、浅いやけどは2週間以内に治りますが、深いやけどはそれ以上かけないと治りません。つまり、2週間以内に治ったやけどは痕が残らないということになります。
次の写真はⅠ度と浅達性Ⅱ度の混在です。
次の写真は浅達性Ⅱ度です。右は治癒後です。一見ひどいことになっていますが、浅いやけどですので、痕は残らないです。
次の写真は一部が深達性Ⅱ度です。右の写真は治癒後ですが、痕が残っているのがわかります。
次の写真は2枚ともⅢ度熱傷です。
最初の冷却が不十分だと、2~3日かけてやけどが深くなることがあります。最初は赤いだけだから放っておいたところ、次の日には水ぶくれができてしまったというパターンです。また経過中に細菌に感染したり、誤った処置方法を行ってしまってもやけどが深くなることがあります。浅達性Ⅱ度熱傷に下手な民間療法を行ったがために深達性Ⅱ度となり、ひきつれを残してしまうパターンです。したがってしっかり冷却することと、正しい湿潤療法を行ってくれる医療機関を選定することが、痕やひきつれが残るか残らないかの分かれ道ということになります。
A.水ぶくれの皮をめくって取ってしまっては傷が露出し痛みを強く感じます。しかし、パンパンに膨らんだ水ぶくれをそのままにしておくことも内圧が高く痛みを感じます。当院では水ぶくれを切開し、中の液体(浸出液)を抜いて、再度溜まらないようにしておきます。もし家庭で水ぶくれが破れても無理に皮を取らないでください。1~2週間ほど経過したら水ぶくれの皮を除去します。あまりに長く残しておくと内部で細菌感染を起こす危険があるからです。
次の写真は浅達性Ⅱ度熱傷ですが、水ぶくれの膜を天然の被覆材として、そのまま治療しました。右が治癒後です。
A.受傷当日は、ハンカチなどでくるんだ保冷剤などで軽く冷却を続けてください。Ⅰ度のやけどは皮膚が赤くなる程度ですから、炎症を抑える塗り薬などを一日に何回か塗布してください。Ⅱ度以上では、傷の状態になって、ジクジクと浸出液が出ている状態です。以下の2原則で処置することが肝心です。
消毒液をつけても細菌感染を予防する医学的根拠はありません。むしろ正常な細胞を障害し、やけどの治癒を遅延させる恐れがあります。家庭用シャワーでしっかり洗い流すことの方が傷を清潔に保ち細菌感染を予防します。石鹸がついても構いません。
傷から染み出る浸出液は自己再生を促す成長因子がたくさん含まれています。処置せず放置したり、綿のガーゼを当てて浸出液を吸わせすぎると、乾いてかさぶたが付着し成長因子が機能せず、逆に治りが悪くなるのです。浸出液の量に合わせて非固着性ガーゼと軟膏を使用したり、ハイドロコロイドと呼ばれる創傷被覆材を使用し成長因子とどめるようにします。(湿潤療法)水ぶくれの皮を取らないのは、天然の被覆材といえるからです。食品用ラップを使用したり薬局で購入した被覆材を使用したりする方もおられますが、誤った自己処置は悪化を招くので注意です。
毎日シャワーで洗浄してその後湿潤療法の処置をする、この繰り返しで治るの待つということです。
次の写真はハイドロコロイドできれいに治癒したⅡ度熱傷です。少し深そうで心配しましたが、右の写真のように適切な治療で何とか痕が残らずに治りました。
A.半年から1年は、風呂上りは保湿を、朝は保湿と紫外線対策をすることを習慣にしていただきます。やけどが治った後、約2~3週後から炎症後色素沈着と呼ばれる暗赤色~茶褐色のメラニン増生が生じます。3か月から6か月程度で自然に改善することが多いですが、この間に紫外線を浴びると炎症後色素沈着が助長され、いつまでも黒ずんているということになってしまいます。
特に痕が残った場合では、乾燥が強くなります。そのため痒みが出て掻いてしまったり、バリア機能が低下し皮膚炎を起こす恐れがあります。これもまた炎症後色素沈着を助長するため、保湿ケアが必要なのです。
痕がひどく残ってしまった場合は上記以外にも圧迫療法や内服治療など、定期的な診療が必要となります。形成外科専門医と相談していただくことをお勧め致します。