院長ブログ
Diary of Gifu Skincare Clinic
2019.04.06
先日、笠松にある松波総合病院にて、健やかネットワークのセミナーがありました。この日のテーマは「眼瞼下垂」と「形成外科のできること」でした。眼瞼下垂は形成外科疾患の中でも大変ポピュラーな疾患で、ある程度治療方法も確立されています。しかし、更なる手術方法の改良や、基礎医学(神経生理学)的な研究も進化しつつある、興味深い分野です。
松波総合病院形成外科部長の北澤先生のご講演を拝聴し、面白かったことを備忘録として記したいと思います。
自覚症状として、まぶたの開けづらさや重い感じ、上方視野の悪化、まぶしい感じ、二重の乱れや目の上のくぼみ、眉毛の挙上、おでこのしわの悪化、そして、頭痛や肩コリ等々・・・これらは教科書的に言われる症状です。そこにもう一つ、あごを挙げてしまうということを示されました。専門用語でいうと項部をやや後屈し、下顎が挙上された状態で、眼瞼が挙がっていないから、眼球を下方視ぎみにして見てしまうということでしょう。眼瞼下垂の肩こりについては、眉毛を挙げてしまうため、前頭筋から帽状腱膜さらに僧帽筋まで緊張してしまうからと理解しておりましたが、項部後屈した姿勢はさらに僧帽筋の循環を悪くし肩が凝ってしまうのだろうということでした。このことは、臨床写真からもよくわかることで、術後の顔写真は鼻の穴が目立たないのに対し、術前は眼瞼下垂状態のため項部を後屈しているので鼻の孔が丸見えになっているのです。
このような患者さんが二重術を目的に来院されますが、よく見ると睫毛は黒目にあたっており、正面視でも瞳孔中心がギリギリ見えるぐらいなんてことがあります。このような方に視野検査をすると、上方視が悪いという客観的な検査結果が出るそうです。眼瞼下垂の一つの症状です。当院でもこのような方の手術を行うと、視野が明るくなった、上の方が見やすくなった、など、よい結果になることが多く、おまけに目がパッチリして見た目の雰囲気も良くなったように感じていただくことが多いです。逆さ睫毛もきょうせいすることができます。
ハードコンタクトレンズを長年装着している方に眼瞼下垂が発症しやすいと言われます。この理由として、レンズを外す際、まぶたを強く外側へ引っ張ったりします。腱膜性眼瞼下垂は瞼板と挙筋腱膜の接合部のゆるみなのですが、この動作により、早くこのゆるみを誘発してしまうのではないかと言われます。私もそう思い込んでおりました。重度のアトピー性皮膚炎や花粉症で目をよくこする癖がある人も、物理的な力の反復により、ゆるみが生じるのでしょう。
ハードレンズの外し方は下まぶたを使う方法やスポイトを使う方法などあり、術後はこのような方法にしましょうと説明しています。しかし、一日一回の引っ張る動作ぐらいで下垂が誘発されるのかという疑問と、外し方は下まぶたで取ってるという人もいかにもコンタクトレンズによる下垂という症状でみえる方もいます。どうやら・・・
ハードコンタクトレンズのような厚みのある固いものを装着し、瞬きを繰り返していると、薄い結膜とその次の層にあるミューラー筋や挙筋腱膜が徐々に菲薄化してくるようです。腱膜性眼瞼下垂は瞼板と挙筋腱膜の接合部のゆるみといいますが、確かに挙筋腱膜も非常に脆弱化しているように感じます。ハードほどではないですが、ソフトレンズでも同様です。ハードレンズ装着者の眼瞼下垂発症は20倍高く、ソフトレンズで8倍、また、ハードレンズ装着歴27年以上の人は27年以下に比べて11倍の高リスクとなると、教えていただきました。
術後にコンタクトレンズをやめていただけるのは良いことですが、無理な方は、装着時間をいかに短くするかが、再発予防に重要なことと言えます。
カテゴリ:眼瞼下垂
2016.10.10
全切開式重瞼術や眼瞼下垂手術では、予定した高さに二重まぶたの折れ込みを作りこんで傷を閉じます。(重瞼線の作成)この予定した高さというのは縫い合わせた傷自体の高さです。この高さより上に折れ込みが入ってしまうのを予定外重瞼線といい、予定した線でしっかりと二重の折れ込みがはいらなくなってしまいます。
予定外重瞼線は手術直後から一週間目までに気づきます。自然に改善することもあるのですが、改善しないと再手術を要しますので、怪しい患者さんにはその時点で袋とじと呼ばれる方法、もしくはつり上げを行って予防します。
袋とじは簡便で効果的なので、よく行われる手法です。
ヴェリテクリニックの室先生のブログにわかりやすいシェーマが載っておりました。この記事を見た直後に当院でも眼瞼下垂手術をしたので、紹介しました。
袋とじのデザインです。紫ラインの3か所に睫毛側と眉毛側の皮膚どうしを縫合して、傷を塞ぐ形にします。
このケースでは予定外重瞼線ができそうな中央部から内側にかけてのみ袋とじしましたが、全体に掛けておくことが多いです。少し目が閉じにくくなります。
カテゴリ:眼瞼下垂 重瞼術(二重まぶた)
2016.05.04
この眼瞼下垂の手術を過去に受けられた方で、もう一度手術したいというご相談は、たまにあります。
①下垂が矯正できていない。
②左右差がある。これは眼の開け具合の左右差と、二重の幅の左右差があります。
③眼の形がおかしい。特によくあるパターンは、通常、目を開けた時の上まぶたの弧状の線(瞼縁)の形は中央よりやや内側がピークです。しかし、中には中央のみがしっかり上がっていて、内側が全く上がっていない(lateral triangle)というのは良く見かけます。
④矯正が強すぎてギョロメになっている。もしくは閉じにくく乾燥性角膜炎になっている。
⑤吊上げ術などで矯正し、内反(逆さまつ毛)になってしまった。
上記の他にもいろいろな訴えがあります。再治療できること、できないことがありますので瞼の手術に慣れたDrにご相談されるべきです。
上記の修正方法はまたの機会に譲ります。術式の前に、眼瞼挙筋腱膜にアプローチする手技が少し注意深く進めないとなりません。癒着していることがあるからです。初回手術のDrが丁寧にしていたら割ときれいにアプローチできます。それでも瞼板と皮膚はしっかり癒着していますし、挙筋腱膜上にも部分的に癒着していることもあるので、細心の注意で行います。
この写真は初回手術で挙筋腱膜に矯正の糸を通しているところです。組織がキレイに簡単に展開できます。
この写真は修正の症例です。内側に癒着があり、剥離時に一部小さな損傷を余儀なくされたので、糸で縫合して修復しているところです。
2015.07.02
瞼の手術でも、後天性眼瞼下垂のように加齢による疾患は通常両側発症するものが多いです。両側眼瞼下垂は両側同時、もしくは少しだけ時期をずらして行うこともありますが、左右のバランスを整えるように手術します。術後手術結果で患者さんが不安に思うことは左右差が一番大きいと言われます。
生まれつきの先天性下垂や、ハードコンタクトレンズを長期に装着している方に起こりやすい腱膜性眼瞼下垂では、片側だけ下垂することが時々見られます。その他、けがによってできる外傷性、また脳内の疾患に伴うものでも起こることがありますので見極めが大切です。
片方のみ手術するときは、もう片方(健側)に合わせるということが、満足度に大きくつながります。
1.自然な眼の空き具合、努力開瞼時、など、まずは黒目の見え方がそろうこと。
2.二重の幅がそろうこと
3.眉毛の高さがそろうこと
これらがなるべく左右そろうようにコントロールします。
上記1に関して、これは腱膜の前転(矯正の具合)を調整したり、固定する位置を黒目に対して何処に留めるかなどを術中にも確認しながら行います。しかし、手術がひとたび始まれば、
・腫れ始めたり、内出血で開瞼抵抗が増える。
・眼輪筋(目を閉じる筋肉)が局所麻酔の影響で弱まり、開瞼抵抗が減る。
・挙筋(目を開ける筋肉)が局所麻酔の影響で弱まり、開瞼抵抗が増える。
上記により、予測が難しくなることもあります。局所麻酔の注入部位や量、愛護的な手術操作かつ、経験で判断せざるを得ません。
上記2に関しては、
・矯正した開瞼力がどれほどか(強く開ければ二重は狭くなる、弱めであれば二重は広くなる)
・二重を形成する高さ(まつ毛から何ミリで切開して二重ラインを形成するか)
・皮膚の切除量(切開した高さから何ミリの幅でたるんでいる皮膚を取るか、もしくは全くとらないか)
・開瞼が楽になると、上記3も関わりますが、おでこで眉毛を挙げて開瞼を助ける(前頭筋開瞼)が弱まり、高く上がっていた眉毛の位置がさがってきます。
これらのバランスで二重ラインの幅がきまります。
経験的にうまく調整するしかありません。
いつもこのパターンが悩ましいです。両側手術を勧めますが、左右差のある眼瞼下垂では、軽度の側は手術の必要がないと思い込んでいらっしゃる方がお見えです。この時、手術側を下垂のない状態にするか、それとも非手術側に合わせて軽度下垂状態でとどめておくか。せっかく手術するのに、下垂の状態で終わらせるのは術者として違和感があります。こういったときは、患者さんによく説明し、
1.非手術側に合わせて少し下垂が残りますが、将来的に再手術の可能性が残されてしまうとお話する。(しっかり矯正しても再発のこともありますし)
2.下垂は生じないようにしっかり矯正しておきますが、非手術側が軽度下垂なので、左右差が出ます。気になるようでしたら、非手術側も将来的に手術を考えましょう。
まぶたの手術は可動部位であり、コスメティックな部位であり、私は他の部位とは違う独特の緊張感があると思っています。