院長ブログ
Diary of Gifu Skincare Clinic
2026.06.16
睡眠に関する講演内容の医学的解説 〜柳沢正史先生の睡眠研究を踏まえて〜
柳沢先生のYouTubeはかなりたくさん拝見いたしました。
そのエッセンスを、今回JSAS美容外科学会の特別講演で拝聴したので、私の考察とともにブログにまとめておきました。
睡眠研究は近年急速に進歩しており、現在では睡眠は単なる「休息」ではなく、“高度に制御された能動的な生命維持機構”として理解されるようになっています。 柳沢正史先生は、特に 睡眠・覚醒の制御機構 オレキシンによる覚醒維持 ナルコレプシーの病態 などの研究で世界的に知られており、現代睡眠医学の中心的人物の一人です。
今回の講演では、
なぜ眠る必要があるのか(sleep function)
なぜ眠くなるのか(sleep regulation)
という2つのテーマを軸に、睡眠の本質について解説されていました。
2017年頃、クラゲ(Cassiopea)にも睡眠様行動が存在することが報告されました。 クラゲには「脳」がありません。 それにもかかわらず、 活動性低下 刺激への反応低下 睡眠不足後の rebound(反跳現象) が認められました。 これは非常に重要な発見です。 つまり睡眠は、 「高等動物が脳を休ませるための機能」 というだけでは説明できず、 細胞恒常性維持、エネルギー代謝調整、神経回路再構築、老廃物除去 など、生物にとって本質的な生命維持機構である可能性が示唆されます。
一般には、 「REM睡眠=浅い睡眠」 と理解されることがあります。 しかし実際には、REM睡眠は非常に特殊で重要な睡眠段階です。 REM睡眠中は、 EEGでは覚醒に近い脳活動 vivid dream 自律神経活動の変動 骨格筋の強い脱力(muscle atonia) などが起こっています。 つまり、 「脳は活動的だが、身体は完全に休止している」 状態です。 またREM睡眠は睡眠後半に増加するため、 「寝始め3時間だけが重要」 という一般的な説明は正確ではありません。 むしろ睡眠後半のREM睡眠は、 記憶固定、情動処理、学習、神経ネットワーク再構築 に重要と考えられています。 最近では glymphatic system(脳内老廃物除去機構)との関連も議論されています。
高齢者では、 深睡眠(slow wave sleep)の減少 中途覚醒増加 早寝早起き(phase advance) 睡眠リズムの不安定化 などが起こります。 背景には、 視交叉上核(SCN)の機能低下、メラトニン分泌低下、睡眠恒常性低下などが関与します。
一方で近年は若年者でも、 同様の睡眠リズム障害が増えています。 原因として、 夜間の強い光 スマートフォン、social jet lag、不規則生活、などが重要視されています。 特にLEDやブルーライトは、 網膜の melanopsin-containing retinal ganglion cell を介して概日リズム中枢(SCN)へ強く作用します。
social jet lagは良く経験します。平日より遅寝遅起きになり、睡眠時刻の中央時間が、遅くシフトすることにる時差ぼけ状態です。次の平日が、しんどい。
柳沢先生が強調されていた重要な点として、 「日中に強い眠気があること自体が異常」 という考えがあります。 慢性的な眠気は、 慢性睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群(OSA)、ナルコレプシー 特発性過眠症、概日リズム障害 などの可能性があります。 日本では慢性的睡眠不足が“普通”になっていますが、本来、十分な睡眠が取れていれば日中は覚醒を維持できるはずです。 また慢性化すると、患者自身が眠気に慣れてしまい、自覚できなくなる点も重要です。
睡眠不足は肥満と非常に強く関連します。 睡眠不足により、 ghrelin上昇(食欲増加)、leptin低下(満腹感低下)、insulin resistance増加、cortisol上昇 などが起こります。 結果として、 摂取カロリー増加、高脂肪食選好、エネルギー代謝低下につながります。 柳沢先生の 「寝ない大人は横に育つ」 という表現は、実際には代謝学的にも非常に理にかなっています。 逆に、睡眠時間を十分確保すると自然に摂取カロリーが減少するという報告もあります。
美容皮膚科領域でも睡眠は極めて重要です。 睡眠不足では、 皮膚バリア機能低下 TEWL増加、炎症性サイトカイン増加、酸化ストレス増加、創傷治癒遅延などが報告されています。 さらに慢性的睡眠不足は、 collagen degradation、MMP活性化、glycation促進などを介して皮膚老化を促進する可能性があります。 つまり睡眠不足は、 炎症・酸化・糖化という老化の主要経路すべてに関与し得ます。 抗加齢医学の基本中の基本ですね。昨年受験した専門医試験そのままの内容です。美容医療では、 レーザーや注入治療だけでなく、 睡眠指導そのものが skin health に大きく影響する可能性があります。
近年、 REM睡眠減少と認知症リスク上昇との関連が注目されています。 特に、 Alzheimer disease Lewy body disease Parkinson disease との関連が研究されています。 REM sleep behavior disorder(RBD)は、 α-synucleinopathy の prodromal symptom として有名です。 REM睡眠減少は、 記憶固定低下、synaptic plasticity低下、amyloid clearance低下 などに関与している可能性があります。
睡眠は単純な「疲労」だけで決まるわけではありません。 睡眠には、 Process S(睡眠圧) Process C(概日リズム) という二重制御があります。 これは Borbély の two-process model として知られています。 概日リズムは良く知られています。体内時計というやつで、24時間ではなく少し長めと言われ、寝る時間が遅くなりがちな原意になります、睡眠圧は、その正体はまだ解明されていないようです。なぜ眠くなるのか、何が眠気になっているのか、まだその答えがない。
夜9時頃は疲れていても biologic wake maintenance zone にあたり、意外と眠りに入りにくい時間帯です。 概日リズムは光によって調節され、特に朝の光が重要です。
メラトニンは松果体から分泌されるホルモンで、 「眠らせるホルモン」というより、 “夜を身体に知らせるホルモン” と理解した方が適切です。 通常は夜間に増加し、深夜0時前後にピークを迎えます。 しかし光、特にブルーライトにより強く抑制されます。 小児は成人よりブルーライト感受性が高いため、 夜間スマホ タブレット 強い室内照明 の影響を受けやすいとされています。
柳沢先生最大の業績の一つがオレキシンの発見です。 オレキシン(hypocretin)は外側視床下部から分泌され、 覚醒を“維持”する役割を担います。 オレキシンが欠損すると、 ナルコレプシー type 1 が発症します。 重要なのは、 オレキシンは「覚醒開始」より、 “覚醒状態を安定化する” 役割が強いという点です。 欠損すると sleep-wake state instability が起こり、 突然の睡眠発作が生じます。
近年登場した DORA(dual orexin receptor antagonist)は、 従来のGABA系睡眠薬とは全く異なる作用機序を持ちます。 代表薬: デエビゴ(レンボレキサント)、ベルソムラ(スボレキサント)、クービビック(ダリドレキサント)。従来薬は脳全体を抑制する方向でしたが、 DORAは「覚醒維持システム」を抑える薬です。 特徴として、 REM睡眠を比較的保つ、より自然な睡眠構造、依存性が比較的少ない、高齢者でも使用しやすい などの利点が挙げられます。 一方で、 悪夢 金縛り 翌朝の眠気 などには注意が必要といわれます。悪夢については、諸説あるようで、いままでREMが不十分だったため、夢を多くみるようになり、たまたま悪夢も入ってくるだけのことだろうといわれています。悪夢について、確か骨切り山ちゃんが質問されてました。また悪夢は将来起こるかもしれない良くないことに対する予行演習と考えれれ、その時のストレスを回避するためのものではないかと言われています。
不眠を強く訴える患者でも、 PSG(polysomnography)上は著明異常を認めないことがあります。 これは paradoxical insomnia や sleep state misperception と呼ばれます。 つまり、 「眠れていない感覚」 と 「実際の睡眠状態」 は必ずしも一致しません。 そのためCBT-I(認知行動療法)が有効である理由の一つは、 睡眠そのものだけでなく、 “睡眠認知” を修正する点にあります。
OSAは日本でも非常に多い疾患です。 OSAでは、 intermittent hypoxia sympathetic activation oxidative stress endothelial dysfunction が繰り返され、 高血圧、冠動脈疾患、脳卒中、心房細動、認知症などのリスクを増加させます。 日本人では肥満だけでなく、 小顎、後退顎、上気道狭小など craniofacial anatomy の影響も大きい点が特徴です。
総括です。
睡眠は、 神経科学 代謝学 循環器学 精神医学 皮膚科学 老年医学 など多くの領域を横断する基盤的生理機能です。 睡眠不足は単なる「疲労」ではなく、 metabolic dysfunction neurodegeneration immune dysregulation accelerated aging を静かに進行させます。 美容医療や skin health の観点からも、 睡眠は単なる生活習慣ではなく、 治療効果や老化速度そのものに関わる “根本的介入因子” として捉える必要があると考えられます。
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